神社

神社支援の基礎知識

目次

1.神社支援の目的 2.神社の持つ役割 3.神社界の概要 4.前提となる憲法と法律の理解 5.神社支援の目指すべき姿 6.神社界の実態調査 7.神社界の問題 8.神社に必要な支援

神社支援の目的

私は中小企業診断士として、神社を支援する活動を行っています。 その想いについてはこちらで触れています。 近年の人口減少に伴い、活力を失いつつある神社を支援していきたいと考えています。神社といってもその規模は大小様々ありますが、支援が必要な神社のほとんどは規模の小さな、特に過疎地域にある”町の神社”です。 宗教法人である神社は営利団体ではないことから、神社を専門として支援を行う民間サービスはほとんど存在しません。したがって、神社運営をつかさどる神職者の力量が、そのまま神社の存続に大きく影響しているともいえます。 神職者は神社運営を預かっている立場上、民間の力を借りることなく、自分で何とか盛り立てたいという思いを持っています。しかし、神職者は祭祀儀礼を行う専門家であって、振興支援や活性化の専門家ではありません。したがって、やり方には個人差・能力が大きく左右されるのです。能力があるならともかく、無い場合、神社の存続危機に直結するのです。 歴史ある神社の存続が、神職者の力量に大きく依存しているという現状は心もとないと考えます。神社は太古より我々の祖先が守り抜いてきた施設です。必要あらば民間や行政といった外部の助力を得てでも、確実に後世へと繋いでいくべきものではないでしょうか。 私は、神社支援の意義として次を掲げたいと思います。
  1. 神社を維持し文化とともに子孫に受け継ぐ
  2. 神社支援活動を通じて神社が置かれている状況を世の中にしらしめる
  3. 神職者の社会的地位を向上させる
  4. 神職者自らが自立した教化活動ができるようになる
ここで、神社が持つ役割について触れてみたいと思います。

神社の持つ役割

明治時代に施行された、いわゆる「神社合祀令」に強く反発した南方熊楠(1867~1941)によると、“神社を合祀することの問題点”としておおよそ次のようなことを述べています。 ※合祀とは複数の神社の祭神を一つの神社にまとめ、その他の神社を廃することによって、神社の数を減らす政策。1906年の勅令によって進められ、1914年までに全国に約20万社あった神社の7万社が取り壊された
  1. 「合祀は村民の慰安を奪い、人情を薄くし、風俗を害する」 神社が抱える広大な森林域は境内を散策することで住民の慰安となっている。
  2. 「合祀は土地の治安と利益に大きな害となる」 天災の際には避難地となり、また境内は子供たちの格好の遊び場である。森林を伐採したことで水が涸れたりするなどの事例も報告されている。
  3. 「合祀によって史蹟、古伝が滅却されてしまう」 神社を打ち壊すことで、そこに伝わる古い事歴・古文書・民俗学上の古伝・祭儀上重要な資料などが失われ、国宝級の古物珍品も散逸し、学術研究のうえから大いに支障をきたす。
  4. 「合祀は天然風景や天然記念物をも亡滅させてしまう」 古来、神社の森にはその土地固有の自然林を千年来残している者が多く、そのうえ、それら自然林には珍種の植物も自生する。(熊楠自身、たびたび新種の粘菌類などを採取している)
以上、熊楠の主張を整理すると神社は次のような機能を持っていると考えられます。
  1. 神社は地域住民の憩いの場である
  2. 非常時の際は避難所となる
  3. 手つかずの自然を有し、古来の生態系を留めている
  4. 創建時期が古いものが多く、学術的な価値がある
また、熊楠以外にも、次のような意見もあります。
「日本人が誇れるものがある。それは日本人の「こころ」と「魂」である。例えばモノを大切に使う「もったいない」の精神や、国内外でのビジネスやコミュニケーションの場での「思いやり」や「おもてなし」をする控え目で優しい心。(中略) 実は歴史的に、このひとつひとつの「日本人の誇りある精神」の背景には、森羅万象を大切にする日本の神道が大きく関係している」

山村明義[2011]『神道と日本人』新潮社

このように神社は自然、史蹟、古文書といった物理面だけでなく、「こころ」や「魂」といった精神面においても、日本人にとって重要な役割を担っているといえるのです。

神社界の概要

神社は全国に約8万社あり、そのほとんどが神社本庁配下の神社という構図になっています。これら包括下にある神社は、基本的に宗教法人として活動しています。 宗教法人には宗派、教派、教団のように神社、寺院、教会などを傘下に持つ「包括宗教法人」と、神社、寺院、教会などのように礼拝の施設を備える「単位宗教法人」があり、単位宗教法人のうち包括宗教法人の傘下にある宗教法人を「被包括宗教法人」、傘下にないものを「単立宗教法人」といいます。

(出所)『平成27年版 宗教年鑑』文化庁 をもとに作成

全国のほとんどの神社を包括する神社本庁は、包括宗教法人です。 神社本庁の配下には、規模の大きな神社(大社系)と、規模の小さな神社(民社系)が8万社近くが包括下にあるという構図になっています。 大社系の神社は高い知名度があり、氏子のみならず全国から崇敬者が訪れるほか、資金を潤沢に持つ崇敬会や企業などが寄付金提供者として存在しており、強い運営基盤を持っていることが特徴として挙げられます。 次に、意外と神社と寺院(お寺)の違いを理解されていない人が多いため、比較を行ってみたいと思います。
多くの日本人は自覚していませんが、信者数は初詣の参拝者数などから算出されているため、ほとんどの日本人が神道徒、かつ仏教徒としてカウントされています。このデータには信仰心の強さは現れていないため、実際のところ信者としての認識を持っている人はかなり少ないと考えたほうがよいでしょう。
続いて神社と寺院の収益源について。 この表はあくまで一般論であり、実際には個々でかなり収益源の仕組みや、額面の差があることは確かです。前提となる憲法と法律の理解 神社支援を行う上で、憲法と法律(宗教法人法)の理解は欠かせません。 まず大前提として、昭和21年に公布された日本国憲法の、宗教に関連した個所の理解が必要です。関連するのは第二十条と第八十九条で、この二カ条はいわゆる「信教の自由」「政教分離の原則」を示しています。
第二十条

1 信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。 2 何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。 3 国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。

第八十九条

公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。

日本国憲法は敗戦間もない時期に施行されていることから、草案にはGHQが深くかかわり、国家と宗教を徹底的に分離することに主軸がおかれた内容になっています。 昭和26年、これら憲法をもとに宗教法人法が施行されます。 宗教団体に法人格を与えることを目的として作られた法律です。 神社支援において、おさえておきたい特徴を3つあげます。 1.認証制度 宗教法人の設立、規則の変更、合併、解散について、そのつど所轄庁(都道府県知事または文部科学大臣)の認証を得なければならない 2.責任役員制度 必ず3人以上の責任役員(うち1人は代表役員) を置き、宗教法人の事務は責任役員の定数の過半数で決し、その議決権は、各々平等となっている 3.公告制度 宗教法人が重要な行為(合併、解散、財産処分等)をしようとするときには、信者その他の利害関係人に公告することを義務づける 続いて、宗教法人法にもとづく提出書類には次のようなものがあります。
  1. 役員名簿 氏名、年齢、住所など
  2. 財産目録 土地・建物・預金・有価証券などの取得額や評価額)
  3. 収支計算書 収支・支出の明細書 。ただし公益事業以外の事業を行っていない、かつ収入が 8,000万円以内の場合は提出不要
  4. 貸借対照表 作成している場合は提出必須
これら書類は、毎会計年度終了後4月以内に所轄庁に以下を提出しなければならないとされています。所轄庁とは所在地を管轄する都道府県知事になります。(ただし包括宗教法人や、複数県にまたぐ活動をしているといった場合は文部科学大臣が所轄となります)

神社支援の目指すべき姿

神職者の重要な役割として、「神職者の責務は“神と人との仲とりもち”である」ということがよく言われます。 神職者はご神徳を広めるため、神社に訪れる参拝者と神との距離を近づけることを自らの責務と感じているのです。したがって氏子や一般の参拝者からすれば、神の距離感が近いと感じることのできる神社が、神社における理想の姿であると定義できるのではないでしょうか。 神社を支援する者は、この理想の姿の実現に注力するべきと考えます。しかし手法を誤ると次に示す「尊厳護持主導型」や「崇敬者迎合型」の状況を招きかねないため、理想的な神社の姿から外れないような活動を行うよう意識する必要があります。 図で示すと次の通りです。
このように神社支援においては、「神社とは、本来何をする場所なのか、何を目的としているのか」を忘れないことが重要です。

神社界の実態調査

ここからは、「神社・神職に関する実態調査」によるデータを示します。 なお、この調査は神社本庁が5年ごとに実施するものであり、以下に示すデータは2016年に実施されたものを使用しています。 全国におよそ10,000名存在する宮司職のうち、6,196名から回答を得たものでることから、神社界の実態が大きく反映された資料といえます。 以下は祈祷、賽銭、授与品、寄付など、神社として得られた直近1年間の収入を問うたものです。全国の神社の半数が年間300万円未満の収入しか得られていないことがわかります。
以下は宮司職の年収です。 神職者は複数神社の兼務や副業を行っている者が多いのですが、それでも年収が300万円未満という結果でした。また、神職のみで生活できている者は、全体の1割程度といわれています。 国税庁の「平成27年 民間給与実態統計調査」によると、日本人の平均年収は約420万円であることからも、神職者の財務状況の厳しさがわかります。
神道には教義のような教えがないので”布教”の概念がありません。とはいえ、人々に神道についての理解を深めてもらい、神社にもっと来てもらうための活動は必要です。これを教化活動といい、神道では布教活動に近い意味合いで使います。 以下は、教化活動を何か実施していますか、という問いです。
教化活動は、特に実施していないという回答が多いことが示されています。 次に、「地域社会の中でより重要になるために必要なこと」、つまり、教化活動のための方向性についての考えを、宮司に問うたものです。 ここで注目すべきは、「行政のとの連携・支援」と回答した宮司が27.2%もいたことです。自分たちの努力では限界という見方もでき、外部の支援を必要としている気持ちの現れと見ます。 その一方で「いっそうの神明奉仕」と回答している宮司が半数近くもいることに驚きます。 神明奉仕は神職にとって”当然のこと”。それでもこれを第一に挙げるということは、「それしかできない」「他に何をしていいかわからない」という声が隠されていることを意味しているのではないでしょうか。 これでは人々の心は神社から遠ざかっていく一方ではないでしょうか。神社は人に来てもらってナンボです。 このデータから、神社支援がより必要とされていることを感じました。
「後継者がいるか」という問いに対し、「いない」と回答した宮司は2,048名、つまりアンケートに回答した宮司の3人に1人が「いない」と回答しています。 なぜ後継者がいないかを問うた理由が以下です。
ご覧の通り、 「あえて子弟に継がせようと思っていないから」 「後継者となる子弟に後を継ぐ意思がないから」 といった消極的な意見が目立ちました。 神職の収入が低すぎることから、職業として魅力を感じていないのではないかという仮説が浮かび上がります。なお、余談ですが神職者の中には「神職は職業ではない」と考える者もおり、民間からの支援を遠ざけている理由の一つになっています。 次は、この10年間での氏子の数がどうなったかを問うたものです。 「減少した」と回答した宮司が6割を超えています。
以上、神社界の実態を示すデータの中から、特に重要と思われるものを抜粋してご紹介しました。

神社界の問題

神社界の現状の問題点を整理してみたいと思います。
  1. 人口減少・高齢化による氏子数減少
  2. 信仰心の希薄化
  3. 後継者の不足
  4. 神職者の薄給
  5. 大社系と民社系神社の格差拡大
5の大社系と民社系神社の格差ですが、 「ホームページによる宣伝合戦が激化し、別表が氏神神社から氏子を吸収するようなことになり、氏子離れが加速した。」 との意見もあることから、ブランド力のある大社系に参拝者が奪われ、民社系神社の収益力が落ちる傾向がみられるというものです。

神社に必要な支援

先に示した問題は、大きく承継面と収入面の2つにわけることができます。 承継面での対策も急がれますが、それ以上に神職者の収入を増やし職業としての魅力が向上せねば承継面での改善は期待できないと考えます。 したがって神社界の早急な課題は「収入面の改善」に集約することができます。 収入の改善に向けてまず取るべき行動の例を示します。
  1. 神社支援の必要性に対する地域の理解 宗教法人ですので、責任役員たちの同意が必要であることは言うまでもありません。それだけでなく、地域の住民(氏子)が、神社がおかれている現状と支援が必要であることを認識し、理解を得ることもまた重要です。理解を得ないまま振興対策を進めると、後になって「神社が金もうけに走るようになった」などの誹謗中傷をうける可能性があるためです。
  2. プロジェクトメンバーの定義 神社振興をプロジェクト化し、メンバーを定義します。メンバーとは神職者、神社職員、企業などの外部支援者、氏子総代、氏子といった関係者が想定されます。神社振興の対策方針と方向性を定め、メンバーで共有します。
  3. 具体策の実行 具体的な施策と担当者を定めたうえでPDCA(計画・実行・確認・改善)をまわしつつ、すすめます。ここでもメンバー間の情報共有を定期的に実施することが必要です。
キーとなるのは、外部の支援者の協力です。やはり神職者だけでの振興対策は限界があります。それは、もともと神職者は神職を目指す過程において、たとえばEXCEL操作、ホームページ作成、マーケティングに関する知識を学習する機会がほとんどないためです。 長くなりましたので、続きはまたにします。